講師業をされているYさんの、かなり変わった体験談です。
はきはきと明るく華やかなYさんは、「わたし、すごくヘンな子だったんですよ」と、ほがらかに言いました。講師としてたくさんの人と接する仕事をされているYさんはそんな風に見えませんでしたが、話してくれた中学2年生のときの体験は、普通の人とはかなり違っていたのです。
「わたし、いじめられていることに気づかなかったんです。私立の女子中学だったんですけど、順番にイジメがあるんですよ。出席番号順に。それで、順番が来てわたしも無視されてて。
でもそのときは全然気づかなくて、普通に過ごしてたんです。いじめっ子は頭にきたんでしょうね。
給食のときに班ごと机をくっつけて食べるんですけど、ある日、わたしの周りから、みんな自分の机を持って、さーっと離れていったんです」
教室の真ん中にひとり取り残される中学2年生のYさん。胸が痛くなるようなシーンです。……ところが。
「わたし、追いかけっこが始まったって思っちゃって。「よーし!」って机を持って、みんなを追いかけたんです。もちろん、みんなは逃げて。机をガタンゴトンさせながら追いかけっこしてたら、とうとういじめっ子が、「もう止める!バカみたい!」って。その日からイジメはなくなったんです。それまで1ヶ月も無視されてたらしいんですけど、わたし、全然気づかなくて」
その1ヶ月間、Yさんは学校でどんな風に過ごしていたのでしょうか。
「もともと、誰か決まった人といつも一緒、ってタイプじゃなかったんです。給食もそのときによって違う人と食べてたし、ひとりで食べたり、お弁当持って廊下をふらふらあるいてたら校長先生に呼ばれて、校長室で一緒に食べたこともありました。
ひまなときは、ひとりで絵を描いてました。聖闘士星矢がすごく好きで。オタクだったんですよね。それからお笑いが好きでした。人を笑わせるのが好きだったんです。だからおしゃべりでしたよ」
無視されていたのに? おしゃべり?
「相手を笑わせるような面白いことを話すんです。そしたら何を言っても反応してくれなかった子が、がまんできなくなって、ぷっと吹き出したりして。どうやって相手を笑わせようかって考えてましたね」
信じられないくらいポジティブで、明るいのです。女子のイジメは陰湿なものになりがちですが、Yさんには、陰湿さを吹き飛ばしてしまうパワーがあったのですね。
「それからも、もしかして大人になってからも、イジメがあったのかもしれません。でも、気づいてないので、分からないんですよね」
Yさんは一人っ子で、親や親戚みんなから、とてもかわいがられて育ったそうです。だから、自分が愛されているという絶対的な自信と、ゆるぎない自己肯定感がはぐくまれたのでしょう。
今、Yさんは、その場にいるだけで空気がパッと明るくなるような、素敵な講師として生徒さんにも慕われ、活躍されています。
文・高橋桐矢